2023.04-12の読書

 先日地元南浦和のゆとぴやぶっくすにて開催された読書会に参加した。課題本はちょうど一年前に読んだ「急に具合が悪くなる」。この本はだいぶ気に入っていて何回か読み直していたし、ずっと読書会に参加してみたいと思っていたので、よい機会と思い参加させてもらった。

  読書会への漠然とした憧れはあったものの、実際どのようにして進行されるのか、どの程度の準備をして臨むべきかといったお作法を身につけていないことが若干不安であった。また自分だけ読解力の低さが露呈したらどうしよう的な不安もあり、しっかりめにメモを用意したり付箋を貼ったりして臨んだ(付箋箇所は結局1度も参照しなかった)。が、会は課題本の提案者の進行のもと終始和やかな雰囲気で進み、参加後にはシンプルにこの本への理解も、テーマである哲学、運命、医療等についての議論も深まったと感じられてとてもいい経験だった。

 ここまでずっと理系(工学)でやってきたので、たとえば輪読をしてみんなで話し合うみたいな経験をほとんどしてこなかった。今回の会の最中、他の参加者の言葉の使い方、他者の発言の受け止め方などに、ああこういったことは人文系の学習をしてきた人ならある程度身につけてきていることなのだろうと感じたポイントがいくつかあった。読書会は今まで使われてこなかった自分の「人文系の筋肉」みたいなものをバランスよく鍛えるのにちょうど良い感じがする。まずしばらくは地元のゆとぴやぶっくす読書会で腕を磨いて、その後はよその読書会にもはばたいていけたらいいな。

note.com

以下読んだ本の感想は随時追記します

 

苦海浄土わが水俣病 | 石牟礼道子 

 

・お嬢さん放浪記 | 犬養道子 

 

・サード・キッチン | 白尾悠

めっっっちゃよかった

 

・人新世の「資本論」 | 斎藤幸平

 

・暇と退屈の倫理学國分功一郎

 

・普通という異常 健常発達という病 |  兼本浩祐

 

・正欲 | 朝井リョウ

 

外国人労働者・移民・難民ってだれのこと? | 内藤正典

ゆとぴやぶっくすと2023.01-03の読書

 わたくしの地元、さいたま市南浦和にある古本屋、ゆとぴやぶっくすのプロモーション用テーマソングをonettさんと制作させていただきました。歌と鍵盤ハーモニカの演奏をしております。

youtu.be

 店主のご家族が、お会いしたことはないものの以前から曲を聴いており存じ上げていたonettさんであったという偶然のご縁から、テーマソング作りのお誘いをいただきました。 

 開店時から店主に何度もお伝えしていることは「この街に本屋を開いてくださってありがとうございます」ということです。ただでさえ書店の数が減少している*1世の中で、本を実際に手にとって選ぶことができる、知らない本に出会える場所がふらっと歩いて行ける距離にできたことが本当に嬉しいです。(最近群馬に引っ越してしまったので実際もう頻繁には行けなくなってしまったのですが...) また、買取に本を持ち込むのはお店の近辺に住む人々の割合が高いわけで、「こんな面白そうな本を読む人が私の周りに住んでいるんだ!」と、本棚を眺めながら間接的に地域のみなさんと交流している気分になれるのも新鮮です。お店は明るくあたたかい雰囲気で、本のジャンルも幅広く、きっと良い本との出会いがあると思いますので、みなさまぜひ足を運んでみてください。

埼玉・南浦和の古本屋 ゆとぴやぶっくす - さいたま・南浦和の古本屋さん

 

遅ればせながら2023.01-03の読書GOGOGO!

・家族最後の日|植本一子

ゆとぴやぶっくすにて購入。長らく2人の間で会話がなかったのに、石田さん(ECD)が入院してからは病室でよく話すようになる、という部分がリアルだなと思った。家族って、構成員の状況が変わったり、一人家からいなくなったりするとダイナミックに関係性が変化するなと思う。もう何十年も一緒に過ごしているのだから今更、と思いきや、一週間ぶりに家に帰るだけでも会話のリズムが微妙に変わっていたりする。

 

・自分ひとりの部屋|ヴァージニア・ウルフ

トロニーからもらった。もっと早くこの本を読んでいればよかったと思うし、この先何度も読み返すと思う。

みなさんには、何としてでもお金を手に入れてほしいとわたしは願っています。そのお金で旅行をしたり、余暇を過ごしたり、世界の未来ないし過去に思いを馳せたり、本を読んで夢想したり、街角をぶらついたり、思索の糸を流れに深く垂らしてみてほしいのです。(中略) 書物というのはたがいに影響し合うものですから、小説は詩や哲学と肩を並べることで、より面白くなるでしょう。それにまた、過去の優れたひとたち、たとえばサッフォーとか紫式部とかエミリー・ブロンテのことを考えれば、彼女たちは創始者であると同時に後継者でもあって、それ以前の女性が自然な書き方をするようになっていたからこそ、出現したのだとわかります。

直接的な連帯ではなく、時代も分野もまたがって間接的に作用する形の、ふんわりとした壮大なシスターフッドみたいなものがあると思う。実際自分も意識的・無意識的になんとなくロールモデルとする女性たち(心のオンニと呼んでいる)が居るし、彼女らの"自由を習慣とし、考えをそのまま書き表す勇気"みたいなものに影響を受けてここまで生きてきた。

 

・急に具合が悪くなる|宮野真生子・磯野真穂

どこかの疫学者が作った数式に則る「かもしれない」という数字が、ある個人の日々の在りようを一変させる、未来の可能性を閉じてしまう。

確率によって描かれる未来予想図の難しさは、それがどこまでいっても〈弱い〉運命論にしかなり得ないということです。運命論的な説明形式をとりながら、それにはいつも「かもしれない」という保留がつくので、提示された側は決めた道をそろそろと慎重に進む以外にありません。(中略)次々とふりかかる「かもしれない」の中で動きが取れなくなる。

宮野さんが闘い続けたガンと、我々が新型コロナウイルスの蔓延によって被った災難では次元が異なるが、日常のあらゆる選択をするにあたって直面する状況は似ていると思った。他者から明確に行動を禁止・制限されることはなく、あくまでも客観的で一般化可能なデータに基づいて各人が自分の意思で適切な行動を選択する、ということになっている。しかしリスクは確率で示される一方で身体は一つしかない以上、我々はなるべく安全と思われる道をそろそろと進まざるを得ない。わたし自身もこの3年間でずいぶん小さく小さく生きる癖がついてしまったなと思う。結局自分の意思で選んでいるのかもあいまいで、選んだ先の未来も不明瞭な〈弱い〉運命論に従うことがデフォルトである中で、災難に意味を与えてくれたり進むべき道を示してくれるような〈強い〉運命論は魅力的に見える。コロナ禍においてはそれは「コロナはただの風邪」といった言説とか各種の陰謀論とか、この3年を経てコロナに打ち勝った的な物語とかだろうか。自分は別にそれらを信じているわけではないが、全然わかるというか、共感はできる。私だって閉塞感を感じ続けることに疲れてしまったし。そして同時に〈弱い〉運命論に従うことに疲れたがんの患者も、似たようなプロセスを経て代替療法やスピリチュアルにハマっていくのだとすれば、少しは気持ちが理解できるような気がする。

 

ケルト 再生の思想|鶴岡真弓

古代中世の北ヨーロッパではサウィン、インボルク、ベルティネ、ルーナサの四つの季節祭を節目に一年のサイクルが回り、大自然の生命循環の周期として捉えられていたとのこと。中でも興味深かったのは欧米におけるハロウィンの起源となっているサウィンと、北欧のミッドサマーのお祭りにも共通性がみられるベルティネ。この二つの大きな祭りを節目に「闇の半年(冬~春)」と「光の半年(夏~秋)」が入れ替わるという。今の感覚でもまあなんとなくは理解できるけど、照明がなく、自然の生命力をダイレクトに感じて暮らす農耕の時代、しかも日本より高緯度に位置するアイルランドなどではよりくっきりと光/闇のコントラストが実感できたのだろうなと思う。

 

・おはなしして子ちゃん|藤野 可織

「猿です」「魚です」の、猿と鮭の死骸をくっつけて人魚を作る話が好きだなあと思っていたら、この間テレビのニュースで、人の手によって作られた人魚のミイラが保存されているという話題が流れてびっくりした。本当の話に基づいていたんだ!今も岡山県で保存されているこのミイラは、人魚としての自覚を持てているだろうか、それとも猿であって魚である自分を受け入れているだろうかと思いを馳せました。

 

・コロナ禍日記|植本一子 他

ゆとぴやぶっくすにて購入。ドイツ在住の香山哲さんの日記が印象に残った。コロナウイルスの蔓延が始まったあたりのタイミングで、すれ違いざまに「コロナ」と呼ばれたり、わざと咳をかけれたりとアジア人差別に遭う頻度が加速度的に増えていく様子が生々しい。

 

・すこし低い孤高|ラショウ・香山哲

ゆとぴやぶっくすにて購入。自分のやりたいことをやって生きていくこと、働きながら創作/表現をするということについてのハウツーは、人によって無限通りあって、唯一の最適解など存在しない。ラショウ・香山両氏の会話から「自分の場合はどうかな?」とひとつひとつをぼんやりと自分に当てはめながら私なりの態度を考える。友達の話を聞いているときみたいだなと思ったし、リアルでも友達とこういう話がもっとしたい。

 

・父と私の桜尾通り商店街|今村夏子

今村さんの小説には子供の無邪気な傲慢さ、残酷さなどがよく出てくるなと思う。不意をつかれては力でだって子供には敵わない。大人としての体裁もあるし

 

・選んだ孤独はよい孤独|山内マリコ

トロニーからもらった。古文の教師が定年前最後の授業でドラマティックな話をしてくれると思いきや、淡々と人生のなかでかかるお金や保険の話をしだすという「本当にあった話」という題の短編が良かった。自分より歳上の大人がつまらない道を真顔で選んで生きていることに気づいた時、見下すわけでも可笑しいと思うわけでもなく本当にただただ絶望するよね...

2022.07-12の読書

遅ればせ界のプリンセスです

 

・どもる体(シリーズケアをひらく)|伊藤亜紗

「言葉の代わりに体が伝わってしまう」場面は、吃音がなくても経験がある人は多い気がする。本人としては不本意な体験だが、人を魅了する力があるというのは肯ける。

 好きで見ていたyoutuberグループは、大体のメンバーが喋りもいわゆる表情管理も上手く、スムーズに情報が伝わってくる。その中に一人、複数人で話しているなかで自分が発言するタイミングが上手くつかめず、やっと発した言葉には興奮が載っていて、他メンバーのようにコントロールが効いてない感じのするメンバーがいる。本人としてはもしかしたら変えたいと思う部分かもしれないけれど、彼がいることで画面の向こうにいる彼らに「職業化された話し方のそらぞらしさ」を感じず、人間的な魅力を感じることができるわけである。

 

・星の子|今村夏子

読み直し。以前読んだ時と、社会的に宗教2世の問題が顕在化してきた今とでは印象がだいぶ違った。以前はラストを読んで、この家族は世間から見れば間違った方向に進んでいるかもしれないけれど、それでも3人で幸せなんだ、これでいいんだと思った。今回はすごく不穏な終わり方だと思ったし、主人公はこの後この両親と距離を置いていくんだろうと思った。そうであって欲しいと思ってしまっているのかもしれない。

 

・滅私|羽田圭介

久保ミツロウさんがいつか言っていた「幸せとは...揺れを楽しめること」という言葉*1が好きだし、折に触れ思い出す。極端に振れれば思考に使うエネルギーを省けるし、そのようにする自分を正当化することも簡単なことのように思う。変化を肯定する、どっちつかずの状態にあることを楽しむことは容易ではないが、その境地に達せればやはりそれは幸せなことだなと思う。

 

・旅する練習|乗代 雄介

アビちゃんの言動一つ一つがフレッシュ。コロナが始まったあの頃のしんとした町の雰囲気、制限されて苦しいけど、非日常感にワクワクして、「いつもはできないこと、なんでもできるじゃん?!」的な妙な全能感を感じたことを思い出す。

 

・かなわない|植本一子

読み直し。植本さんが本業でやられている写真と、この日記は似ていると思った。どちらも生身の人間を、本当の生活を写していて、それがそのまま作品になっている。もちろん相当な覚悟のうえでやっているのだろうけど、被写体(書かれている人)を傷つける危険はある。植本さんと同じような育児の苦しさとか、原発に対する葛藤を経験した人は世の中にたくさんいるだろうが、日々の中で通り過ぎてしまったり、憚られて書かれてこなかったことだと思う。

 

・だまされ屋さん|星野智幸

固着してしまってどうにも身動きがとれなくなってしまった事態が、視点を変える、評価軸がずらされることによって解決に向かうシチュエーションみたいなのが大好きである。この小説の場合はその役割を担うのが、他所の家族に勝手に介入してくる適当な人間であった。

 

 

 昨年後期は小説多めでした。

 

*1:2016年ごろの久保みねヒャダ番組中

「静かに、ねぇ、静かに」を読んで

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 3話入りの短編集で、一番好きだったのは「本当の旅」というマレーシアに海外旅行に行く話。登場人物はいわゆるZ世代的な感覚を持っている3人組で、常識や固定観念に囚われない。ネガティブなことは口にしないし、常に動画を撮りあって共有して楽しんでいる。

"僕らはお金も持っていないし、名声とか地位もないけれども、こうやって友人と楽しいことをシェアしたり、嫌なことにウケたりすることで、現実を僕らなりのいい感じに編集していけるのかなあ。と思う。"この部分とかすごく肯定的に捉えられるし結構共感したが、一方で彼らは不必要な部分を切り取り除いて動画を編集するように、見たいもの、自分の信念を肯定するようなものだけを記憶して、不都合なことは見なかったことにする。理想をしきりに語るけど自分の振る舞いが滑稽なことには気づかない。それが災いして最終的にすごく怖い目に遭う。悪意のある書き方だなとも思ったが、登場人物のように振り切っていなくとも自分も彼らと同じようなことをしている部分はある。自分がつい最近オーストラリアに旅行に行ったこともあり、我が身を振り返らずにいられなかった。

 真夏のシドニーは、キラキラした日差しで照らされていて何を撮ってもよく映えた。ビーチや観光地、街中を映した写真・動画はどれも「絵に描いたようなバケーション」という感じだった。一方で、何が原因か分からない吐き気に襲われて一晩中吐き続けたし、白人に囲まれていると妙に緊張して、滞在しているホテルのあるアジア人地域に戻ると安心した。街中はゴミが多く汚かったし、賑わっている通りでも空き店舗がたくさんあることが気になった。スーパーで人とすれ違う際に露骨に咳をされて嫌な気分になったりもした。旅行から帰ってきて、日頃いわゆる"タフでグローバル"みたいな人物像を目指しているが、自分は実際脆くて弱くて、ローカルが心地いいのかもしれないな、と思って少し落ち込んだ。

 前者のようなポジティブな思い出だけを例えばインスタグラムにシェアしていれば、傍目からは充実している休暇中の旅行に見えるだろうし、そうした姿を他人に見せていれば、自分自身でもやがてそう思えてくる。具体的には、体調を崩したことやモヤモヤした出来事、それらをひっくるめて反省し落ち込んだようなことは少しの間覚えていても、何年か後にはこの旅行の印象は明るくて楽しかったものとして思い出されるんだと思う。実際そのようになった旅は今までにあった。でも今回それをしなかったのは、都合よく編集してしまっては「本当の旅」ではないと分かっていたからだと思う。理不尽な出来事、失敗した経験も自分の財産だし、それをできるだけ生のまま記憶しておきたいと思えたことは、この旅の素晴らしい効能でした。

 

#読書感想文の会

読書感想文の会やるやる詐欺でやらずにすみませんでした。夏休みの宿題が、冬休みになってしまいました。

読書感想文の会


夏休みの宿題の要領で、普段よりじっくり本を読み、ある程度まとまった長さの文章を書く、それで、夏が終わった時にちょっとでも何かを達成した気分になろうという企画です。一緒に取り組んでくださる方を募集しています!

 

期限: 2022831

課題図書: 特になし。適宜下記のおすすめ/読むつもり図書を参考に各自で読む本を決める。

文字数: 400字以上

媒体: 原稿用紙でもスマホのメモでも、noteでもなんでもOK。公表しなくてもOK。ブログ等に掲載する場合は #読書感想文の会 をつけていただけると、お互いに読み合えていいかなと思います。

エントリー方法: 特に参加表明していただく必要はありませんが、参加するつもりの方はもし良かったらこの記事にスターをつけていただければ幸いです!また、おすすめ/読むつもり図書があれば教えてください。達成報告、その他お問合わせも含めて、以下のメールアドレスにご連絡ください。

mail: yunovation@gmail.com

現段階で、私が感想文を取り上げて紹介するとか、参加者どうしで感想文の感想を言い合うとかは考えていません。あくまでも各々で読書&感想文書きに取り組んで、各々でこっそり互いの感想文を読み合う、的な(こっそりじゃなくていいんだけど)計画です。

そもそもこれ、私自身ちゃんと達成できるのかな?って感じです...皆さんも気負わず、できたらくらいの感じで!大人だからやらなくてもだれも怒らないし。

 

⭐︎エントリーメンバーのおすすめ/読むつもり図書

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2022.04-06の読書

平日は毎日行き2時間、帰り2時間の計4時間かけて通勤をしている。このことを人に言うと大体引かれるし、自分でもドン引いています。唯一良いことはたくさん本が読めることで、自分は読書が目的になってしまう(家とか図書館でじっくり読書)とむしろ読み進みにくいタイプなので、通勤のついでに読むという形ができて嬉しいです。とはいえ、5月の半ばごろからは資格試験の勉強を始めてそっちばっかりになってしまい、全然読めていませんでした。肝心の資格も受け終わったが受かっているか怪しい。

 

わたしがいなかった街で | 柴崎 友香 |本 | 通販 | Amazon

この主人公は東京に生活しているのだが、やっぱり大阪や京都でぶらぶら遊ぶ描写が出てきて、はやくも懐かしすぎて胸が苦しくなった。久しぶりに地元で遊んで、かつての仲間が残っていないことに気づく描写がある。主人公は30台半ばだから、あと10年後、私が大阪に行って、まだ遊べる居場所があるか。全くの「お客さん」になってしまうのかな?ニートの友達の中井、大阪の明るいところを煮詰めたみたいなフランクさが良かった。

 

じぶん・この不思議な存在 (講談社現代新書) | 鷲田 清一 |本 | 通販 | Amazon

高校時代に結構影響を受けた鷲田先生(元阪大総長)の本、久しぶりに読み直したら当時と受け止め方が違うというか、刺さる部分が変わっていたのが面白かった。ここ近年、人と関わる際に「会話はセッション」(言葉にするとだいぶダサい、しかも結構既視感があるフレーズ)ということを心に置いている。これは会話する時に相手のリズム(テンション、テンポ、トーン、ムード等)をよく見て、適宜合わせることだったり、自分だけが、相手だけが喋りすぎないように気を付けるという、言ってしまえば会話の基本ルールみたいなのを自分の中で楽器のセッションに例えるとやりやすいなということなんだけど、時折こちらが揺さぶっても相手のリズムが変わらないように感じたり(逆も然り)、完全な「伴奏者」になっているなと感じることがある(逆も然り)。そういう会話の違和感、気持ち悪さは鷲田先生の言うところの「他者のなかに位置を占めていない不安」の一種なのかなと思う。自他は相互補完的であること、自分が相手に与えた効果によって自分が何者か教えられるということ、会話って何気なくてもそれが結構ダイナミックにわかる行為かもしれない。

 

さみしくなったら名前を呼んで (幻冬舎文庫) | 山内 マリコ |本 | 通販 | Amazon

山内さんの描くトガってる女性が好き。今が気にいらない、私にはもっとできる気がする、何者かになりたい、新しいことを体験したい、この町を出たい、東京に行きたい。自分にもこんなときがあったし、こういうトガりを無くしたくないと思った。

 

ワーカーズ・ダイジェスト | 津村 記久子 |本 | 通販 | Amazon

なんと話の最後に印象的なかたちで鍵盤ハーモニカが登場する、鍵盤ハーモニカ小説だった。

自分の中で相手と会話しているみたいに、あの人だったらどうするかな、なんて言うだろうって考える時間、尊い

 

坂の途中の家 | 角田光代 |本 | 通販 | Amazon

自分でも気づかないうちに抑圧されていること、相手に忖度して機嫌を伺って動いてしまうこと、本当は対等な関係でないことは、第三者には見えづらい。当人しかわからないその緊張感がすごく伝わってきて、終始角田さんすげ~と思っていた。公判が進むにつれて、それぞれの関係者の証言によって被告に対する見方が変わっていくのが楽しかった。

 

困ってるひと | 大野 更紗 |本 | 通販 | Amazon

これも高校時代によく読んでいた本。自助自立も相互扶助も結構だが、周囲に負担をかけず円滑にやっていくためにも、せめて難病患者には必要十分の公的な支援があって欲しいと思った。

 

ファミリー・レス (角川文庫) | 奥田 亜希子 |本 | 通販 | Amazon

大好きな本の読み直し。短編なんだけどそれぞれの話が少しずつオーバーラップしていて、各話ごとに登場人物の全く違う面がみえてくるのが面白い。

 

あと課題図書を自分で決めて8月中に読書感想文を書くっていう、読書感想文の会をやりたい。誰かやりませんか?

2022.01-03の読書

・月はすごい-資源・開発・移住 (中公新書) | 佐伯 和人 |本 | 通販 | Amazon

月の地理、環境、最新の月探査の発見など。月の岩石は地球と似ているが、チタンが豊富なのが特徴的。将来人間が月で暮らしていくにはどのように資源・エネルギーを調達するかという話が面白い。

 
友達のおすすめ本。英語で書いて和訳したような、簡潔ですっきりとした文章だった。本当にそうやって書いてるのかも?これを読んで行った気分になるのは傲慢すぎるけど、筆者が感じたその国の風景や、空気が鮮やかに伝わってくる。アフリカには将来の計画や貯蓄はないけど、助け合って生きていけるという、いわゆる「その日ぐらし」の価値観が根付いているらしい。なかなか理解しがたいところもあるけど、その文化の中で暮らせば身につくものなのかな?いずれにせよ先進国がズカズカ立ち入って否定していいものではない。記録に残らなくても、他人に評価されなくても、目の前の人を助けるってことをきちんとしようと思った。
 

年明けのEテレ特番「100分deパンデミック」で栗原康さんが出演しているのをみかけ、この番組がすごく面白かったので、以前読みかけになっていたこの本を読み直した。

伊藤野枝という方は、めちゃくちゃなことをやっているように見えるが、「青鞜」をはじめとした雑誌で発表される彼女の主張はどれもすっきりとしていて、理にかなっていて力強い。本当に文章が上手い人だなと思った。特にフェミニズムの部分において、彼女のような女性が声を上げて戦ってきたからこそ今の女性の地位があると思うと同時に、結婚制度における女性の奴隷根性みたいなものは、今でも依然として深く根付いていて全然解決されていないように思う。筆者が野枝を好きすぎてグルーヴが出ているので、大正時代の堅い文章も引用されるが全体的に読みやすい。めちゃおすすめ本

 

終始じっとりと暗い感じ。脳の記憶が精神科医によって書き換えられまくって、HDDみたいだなと思った。

 

・「利他」とは何か | 伊藤亜紗他

伊藤さんの、よき利他とは、予想外の出来事に開かれていて、自分が変わる余地がある状態だという話が良かった。

 

・自転しながら公転する|山本文緒|新潮社

誰もが直面するような問い、どうしようもない問題に対して、回り道をしながらも主人公なりの答えを出すまでが丁寧に描かれていた。終盤の災害ボランティアに行くところが良い。自分が結局自分のためにしか時間もお金も使っていないことにハッとして、利他的に動こうとするものの、慣れないから空回りしたり失敗したりしてしまうところに共感する。山本さんは隠したくなるような情けない感情を書くのが上手いなと思った。

 

特に"貴族"の華子ちゃんの生まれと暮らしぶりが固有名詞もたっぷりでリアルに描かれていて、読んでいて楽しかった。女性同士の連帯について、現実ではこんなにはっきりと口に出して、プラスのベクトルをもって行動していくのは難しいけど、でも私の身の回りにもささやかな勇気をくれるような連帯の種はたくさんあるので、それを育てていきたいなと思った。あと富裕層めっちゃホテル行くなと思った。お茶もお食事も結婚式もホテルで、ホテル以外の選択肢なさすぎねという感じ!

 

・となりのイスラム|内藤正典|ミシマ社

本来イスラム教は、人々が平等に争うことなく暮らせるよう合理的に作られた福祉システムのような面が強いのだなと感じた。イスラム教に限らず、無意識のうちに西欧の視点を経由してものごとを見てしまっていることに意識的になる必要がある。