2022.07-12の読書

遅ればせ界のプリンセスです

 

・どもる体(シリーズケアをひらく)|伊藤亜紗

「言葉の代わりに体が伝わってしまう」場面は、吃音がなくても経験がある人は多い気がする。本人としては不本意な体験だが、人を魅了する力があるというのは肯ける。

 好きで見ていたyoutuberグループは、大体のメンバーが喋りもいわゆる表情管理も上手く、スムーズに情報が伝わってくる。その中に一人、複数人で話しているなかで自分が発言するタイミングが上手くつかめず、やっと発した言葉には興奮が載っていて、他メンバーのようにコントロールが効いてない感じのするメンバーがいる。本人としてはもしかしたら変えたいと思う部分かもしれないけれど、彼がいることで画面の向こうにいる彼らに「職業化された話し方のそらぞらしさ」を感じず、人間的な魅力を感じることができるわけである。

 

・星の子|今村夏子

読み直し。以前読んだ時と、社会的に宗教2世の問題が顕在化してきた今とでは印象がだいぶ違った。以前はラストを読んで、この家族は世間から見れば間違った方向に進んでいるかもしれないけれど、それでも3人で幸せなんだ、これでいいんだと思った。今回はすごく不穏な終わり方だと思ったし、主人公はこの後この両親と距離を置いていくんだろうと思った。そうであって欲しいと思ってしまっているのかもしれない。

 

・滅私|羽田圭介

久保ミツロウさんがいつか言っていた「幸せとは...揺れを楽しめること」という言葉*1が好きだし、折に触れ思い出す。極端に振れれば思考に使うエネルギーを省けるし、そのようにする自分を正当化することも簡単なことのように思う。変化を肯定する、どっちつかずの状態にあることを楽しむことは容易ではないが、その境地に達せればやはりそれは幸せなことだなと思う。

 

・旅する練習|乗代 雄介

アビちゃんの言動一つ一つがフレッシュ。コロナが始まったあの頃のしんとした町の雰囲気、制限されて苦しいけど、非日常感にワクワクして、「いつもはできないこと、なんでもできるじゃん?!」的な妙な全能感を感じたことを思い出す。

 

・かなわない|植本一子

読み直し。植本さんが本業でやられている写真と、この日記は似ていると思った。どちらも生身の人間を、本当の生活を写していて、それがそのまま作品になっている。もちろん相当な覚悟のうえでやっているのだろうけど、被写体(書かれている人)を傷つける危険はある。植本さんと同じような育児の苦しさとか、原発に対する葛藤を経験した人は世の中にたくさんいるだろうが、日々の中で通り過ぎてしまったり、憚られて書かれてこなかったことだと思う。

 

・だまされ屋さん|星野智幸

固着してしまってどうにも身動きがとれなくなってしまった事態が、視点を変える、評価軸がずらされることによって解決に向かうシチュエーションみたいなのが大好きである。この小説の場合はその役割を担うのが、他所の家族に勝手に介入してくる適当な人間であった。

 

 

 昨年後期は小説多めでした。

 

*1:2016年ごろの久保みねヒャダ番組中