into the sunlight

  朝井リョウさんがプロレスのデスマッチを見にいって、額から血を流して戦っているレスラーを見て「本物」だと思った、懺悔をしているような気持ちになったという話をしていた*1。作家というのは推敲に推敲を重ねて自分が見せたいと思う作品を作り上げ、100点の状態で世に出しているわけで、拙い表現でも全力を出しきり、人前で自分自身をさらけ出すという機会があまりない。だからといってフェイクなわけじゃないんだけど、リングの上で血塗れになっているレスラーをみて、「自分はこんな風に小説を書いているだろうか?」と自分に問いかけたという朝井さんの気持ちは、少し分かるなあと思った。

 私も普段家で作品をポチポチ作り、自分が思う「完成した状態」で曲を人様に聴いてもらっている。特にこれからしばらくはそれが活動の中心になるだろう。一方ライブでは、その時自分がもっているだけの実力が顕になる。ミスは隠せないし、鈍臭い場面もある。そしてその瞬間の自分の姿は自分で絶対に見ることができない。そういう意味で、ライブというのは結構怖い場所だけど、だからこそ光るものがある。自分の活動においては思い通りのものを時間をかけて作り上げることと、あるがままの自分で実力を晒すこと、どちらが偉いというわけではなく、両方のバランスが大事で、しかし、なかなか外から人前に立つ機会を与えてもらえるわけではないこれからは、その両者のバランスを自分でとっていかなければならないなと思う。

 コロナウイルスが蔓延する以前の生活では、ライブは定期テストみたいなものだったなと思う。ぶっちゃけライブの日程が近づいてくるとプレッシャーを感じて胃がきりきりしたり、ライブセットがなかなか決まらなくて焦っていたりしたものの、1〜2ヶ月ごとに人前に立つ機会があったことで、試しに組み込んでみた作りかけの曲が好評だったり、緊張で指が動かなかったり、自分の音楽で意外と踊ってもらえるんだなと思ったりして、部屋でパソコンに向かっているだけではわからない気づきを定期的に得られた。それを普段の曲作りにフィードバックしながら、少しずつ、やりたい音楽をやれるようになっていくサイクルが働いていた。ライブがすっかりなくなった4~5月はそのサイクルが崩れてモチベーションが上がらず、うまく曲を作れなくなっていた。そのかわり、実家で野菜を植えたり散歩に行ったり、爺と麻雀をしたり韓国語の勉強を初めてみたりと、こんな状況でもなければできないことができて、それはそれで楽しい日々だった。

 

 曲を作るというのはゴールが見えにくいから、一人だといつまでもだらだらと曲を作り続けてしまう。それに区切りをつけてリリースをするには自分以外に関係者をつくる(アートワークやwebをお願いする)のがいいということを前回アルバム「朗らかに」を作った時に学んだ。関わっている人がいれば締め切りを決めて前に進まざるを得なくなる。今回のリリースでは曲が7割ほど完成した状態の、まだ割とふにゃふにゃの状態で松井さん(マ.psd)に声をかけ、ジャケットを作り始めてもらった。普通は曲が完成してから曲のイメージなどを伝えて作っていただくんでしょうが、今回は作りかけの状態から、松井さんと曲について話したり、解釈やラフのアイディアをもらったりしながら、段々自分の中で曲の全体像をつかみ仕上げていくことができた。松井さんとしてはもしかしたらやりにくかったかもしれないが、こんな作り方もありだなあと思った。普段の曲作りでも、おおまかには作詞・作曲→録音→ミックス→マスタリングという工程を踏んでいくけど、自分一人で家で作っているのだからきっちりリニアである必要はなくて、ドラムとベースしか固まっていないようなデモの状態で録ったテイクを採用することもあるし、歌い方・吹き方を試しながらアレンジを考えたりしていて、こういう柔軟な作り方ができるのは、宅録というか、ほぼ全部ひとりで、小さい規模で作っていることの強みだなあと思う。

 

 最近は寂しい気持ちに捉われることが多い。寂しさがやってくると、一気に50歳くらい歳を取ったように感じて、体がどっと疲れてしまうし、虚しくて何をするにもやる気が出なくなってしまう。こういう寂しさは、勉強や、研究や、音楽とか、どんなに身の回りのことがうまくこなせていても定期的にやってきて、寝たり、しばらく時間が経てば忘れるけど、この先も一生死ぬまでこの気持ちを抱えて生きていくのかと思うととてもしんどい。低気圧による不調というのが本当に存在するのか分からないけど、ここ最近は続く長雨で本当に気持ちが参ってしまって、この寂しさ・暗さからなかなか抜け出せないでいる。この曲を作り始めた当初は早くみんな外に出ていけるようになるといいね、なんてふんわりした気持ちで”intothesunlight”というタイトルをつけたが、段々マジで晴れてもらわないと困る、なんとしてもこの鬱々とした気分を抜け出して明るくならないといけない、という気持ちで作っていた。

 

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Bandcamp: https://yunovation.bandcamp.com/album/into-the-sunlight

streamings: https://linkco.re/E0nNpSAY

 

新曲into the sunlightはバンドキャンプおよび各種ストリーミングサービスでお聞きいただけます。ぜひよろしくお願いします!

 

*1:2017.02.03 真夜中のニャーゴ